今回、薬剤師レジデントを経て病院薬剤師となり、主任をご経験された後、現在は在宅専門の調剤薬局で奮闘する阿部真也さんにお話をうかがいました。数々の資格を持ち、周囲からも頼られる阿部さんですが、ご自身の経験を振り返り、「薬剤師レジデントは超おすすめ」だといいます。そう言わしめる理由を聞いてみました。

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薬剤師 阿部 真也(あべ しんや)さん
[受賞歴]
[経歴] |
新卒薬剤師の特権!? 自己研鑽に集中できる貴重な2~3年間
――まず初めに、阿部先生がご経験した薬剤師レジデント制度について教えてください。
僕が薬剤師レジデントとして研修した北里研究所病院は、日本で初めて薬剤師レジデントを導入した病院です。薬剤師レジデントは、給料が発生する自己研鑽制度で、医師の初期研修と似たようなイメージです。国家資格を持った1人の薬剤師として研修できるので、ある程度学んだら1人で行動する時間も増えますし、何かあったら当然自分で責任を負わなければなりません。薬剤師としての自覚など、病院実習とは覚悟のレベルがまったく異なると思います。当時では珍しい取り組みで、月給は18万円ほどでした。
研修先として北里研究所病院を選んだのは、院生時代の病院実習で「ここの薬剤師になりたい」と思ったからです。病棟にサテライトファーマシー(薬剤師の居場所)があって、学生の目から見ても画期的だったのと、雰囲気もよく、薬剤師が大切にされているのを感じました。当時は新卒を募集していなかったため、どちらかというとレジデントとして入る選択肢しかなかった感じですね。2年のレジデント期間のうち、最初の半年間は中央業務(調剤、注射、DI、製剤など)、残りの1年半は病棟を担当しました。5フロアをひととおりローテーションした後、最後の半年間は自分で選んだ病棟でじっくりやるというカリキュラムでした。
――薬剤師レジデント制度を実際に経験して、どうでしたか?
そうですね、日本の薬剤師レジデントはそのまま病院に入職してしまうので、病院内での活躍が外部の評価につながりにくく、制度としてはまだそこまで浸透していないかもしれません。また、6年間の薬学部カリキュラムのあと、さらに薬剤師レジデントを選ぶことは心理的なハードルが高いです。しかし、僕自身は薬剤師レジデントの2年間がなければ、今の知識や経験を得るまでにもっと年数がかかっていたのではないかと思っています。後に飛躍するための土台作りとして、薬剤師レジデントは超おすすめです。新人薬剤師として入職するのと大きく違うのは、委員会業務などの雑務がないこと。その分、自己研鑽に時間を割けますし、気持ちとしても「研修だから勉強しないと」と思うので、モチベーションを維持しやすかったです。
本来、薬剤師が医師と対等に話すためには同じだけの知識が必要ですが、医師の研修制度が厳しく定められる一方、薬剤師には同等の機会がありません。薬剤師は施設ごとの独自ルールでやっている面も多く、それぞれの方法が本当にいいものなのか、検証するような組織もありません。だからこそ、薬剤師レジデント制度は教育を体系化するとてもよい仕組みだと思います。
薬剤師レジデント制度について、最近では神戸市立医療センターが特に力を入れている印象です。毎年3月に行われる日本薬剤師レジデントフォーラム(今年度はオンライン開催)において、橋田 亨先生の率いる薬剤師レジデントは、発表の質が非常に高かったと記憶しています。他にも全国各地の病院が薬剤師レジデント制度を取り入れていますよ。
参考:薬剤師レジデント実施施設一覧(日本薬剤師レジデント制度研究会)
http://jsprp.jp/resident_rec.html

病院時代、学会発表で優秀演題賞を取った時の写真
患者さんとの関わりを求めて、病院から在宅専門薬局へ
――病院にかなり思い入れが強いようですが、そこからつなぐ薬局に転職することになった経緯を教えてください。
僕は2年目(レジデントを入れると3年目)から病棟を担当していたのですが、病棟は薬剤師を育てる場所でもあるので、若手と交代して6年後(通算8年目)に主任として調剤室業務に戻りました。それからもいろいろな業務に取り組みましたが、調剤にとられる時間があまりにも多くて、「自分は何のために薬剤師をやっているんだろう」と違和感を持ったのが始まりです。
病棟では自分なりに努力して勉強してきたのに、病棟を離れてからは調剤が業務の中心で、部下のマネジメントや委員会業務などの負担が大きくなっていくばかり。もちろん、それらが最終的に患者さんのためになるのは理解していますが、実際に患者さんと関わる機会が減ってしまったのがとても不安だったんです。
転職を決意した1番のきっかけは、医療薬学会でたまたま聴いた狭間 研至先生の在宅医療に関する講演でした。「病院の外にも患者さんとしっかり向き合える世界がある」という内容に衝撃を受け、「やってみたい」と興味を持ちました。僕は長年病棟を経験して、薬剤師の専門的アプローチにより、患者さんの治療の質が上がるのを実感しています。専門的な知識を持つ薬剤師が地域にいれば、退院後の患者さんも継続的に管理できると思い、これからの自分は地域の薬剤師としてやっていく方が合っているんじゃないかと考えました。
主任だったこともあり、引き継ぎ期間として1年間を設けたのですが、年明け早々の1月4日、部長に辞めることを伝えたので驚いたと思います。転職活動では、自力で在宅専門薬局を探して、「一緒によりよいものを作ろう」という雰囲気と自由な社風が気に入った「つなぐ薬局」に決めました。

クリーンベンチの前にて。青い輪っかは世界糖尿病デーのシンボルマークであるブルーサークルを表現しています。
専門医がいない環境でこそ、専門知識を持つ薬剤師が求められる
――最後にもう1つ聞かせてください。糖尿病関連の資格を2つお持ちですが、ご自身の専門領域として、糖尿病を選んだ理由は何ですか?
大学院時代、糖尿病領域のトッププレイヤーである山田 悟先生らと一緒に研究をしていたことが大きいと思います。僕の頑張りは、育ててもらった恩に対し、恩返しという意味もあります。実際に薬剤師になってからは、糖尿病患者さんとの関わりが特別多い訳ではないですが、薬剤師の専門知識は、専門医が近くにいない環境でこそ役に立ちます。
糖尿病は一般的な疾患で、どこにでも患者さんがいるからこそ、他職種が気付かない部分に薬剤師が気付かねばならない機会があるのではないかと考えています。手術前後の輸液の処方、処方薬の再開中止の判断など、専門医が当たり前にやることでも、専門医がいない環境で、薬剤師が見逃したらまずいんです。僕がその覚悟を持った時、身が引き締まる思いがしました。日頃から、糖尿病領域では“最後の砦”としての意識を強く持っています。
つなぐ薬局に来て、それを顕著に感じた場面がありました。入ってすぐ担当した患者さんが、ご飯も食べられないくらいのひどい下痢をしていたんです。結論から言うと、メトホルミンが原因だったので、総合病院の処方医に連絡して中止になりましたが、訪問医は下痢を知っていながら、理由もわからず整腸剤を処方していました。よくある処方カスケードですね。患者さんは薬が変わってからとても元気になったので、胸をなでおろしました。
このような対処は資格がなくてもできるかもしれませんが、資格を持っていることが自分の知識・思考・行動に対する自信につながると思います。あとは「自分がやらなければ誰がやる」という覚悟ですね。それを持った時、薬剤師として一段階成長できるのではないでしょうか。
取材・文/堀間莉穂(薬剤師・編集者)

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