電子薬歴を介した患者さんへの価値提供。薬剤師の臨床経験を企業で活かす ~カケハシ~

薬剤師として積み重ねた臨床経験はかけがえのないものですが、それを活かせる現場は病院や薬局以外にもあることをご存じでしょうか。今回、薬局店舗主任を経て、電子薬歴システムの開発を手掛けるカケハシに転職した山﨑友樹さんにお話をうかがいました。顧客としての薬局、サービスを使う薬剤師、サービスが提供される患者さんそれぞれの支援を目指した電子薬歴システムには、どんな経験や思いが込められているのでしょうか?

薬剤師 山﨑友樹(ヤマザキ ユウキ)さん
株式会社カケハシ ファーマシストパートナー

経歴:水野薬局店舗主任、Webメディア立ち上げ、英ヘルスケアリサーチ会社のリサーチャーなどを経て2017年に株式会社カケハシに参画。次世代型電子薬歴システムMusubiの導入支援や薬剤関連コンテンツの整備に従事。各種メディアへの寄稿や職種をまたいだ医療関係者の勉強会運営にも携わる。CareNet.comにて、「論文で探る服薬指導のエビデンス」を連載中。
 

学生時代の縁から水野薬局に就職。薬局業界の最先端を学び、論文を読むことが趣味に

――新卒で薬局に就職を決めたきっかけと、そこでの取り組みを教えてください。

卒業後に就職したのは、国内で最初の調剤薬局として知られる水野薬局です。学生時代、自分たちで新聞を作り、全国の薬科大学に配る活動をしていたのですが、薬局、医薬品卸や商社などの企業や厚労省、国内外の大学などを取材した中で、調剤薬局の中でとりわけユニークだったのが水野薬局でした。就職活動中、水野薬局の代表(当時:水野 善郎氏)と話す機会があり、「新聞読んだよ。うちに来てみるか?」と言ってもらったのをきっかけに、入社しました。

水野薬局は、業界最先端のICTを活用した効率的な店舗運営や医療安全性向上への取り組みが特徴で、ISO9001の認証を取得しながら薬局における品質管理の最高峰を目指していました。当時から、薬剤師の業務は対物から対人へとは言われていましたが、一方でエラーを極小化しながらも薬剤師の時間を捻出できる対物のオペレーション構築も大切です。例えば、数百枚と処方箋が来たら、数%の患者にわたりエラーが出るとする論文もありますが、水野薬局は、それを0.0x%台まで下げることに成功しています。その背景にあった、業務をモジュールごとに分解して手順を作成、実践しては改善するという原則を重視する思考は今でも役立っています。

また、大学病院の門前薬局だったので、幅広い疾患について勉強できました。学生時代はEBM勉強会に入っていた経験もあり、ある程度の情報の調べ方や読み解き方は理解しているつもりでしたが、いざ現場に入ったら疑問だらけでしたね。日々目にする処方の中に、何がしか理解しきれない部分があるので、その疑問をきっかけにあらゆることを調べていました。処方歴をファイリングしては調べて…というのを繰り返しているうちに、関連医学論文を読むのが趣味になっていたほどです。

薬局で働きながらさまざまな取り組みに挑戦、カケハシ代表との出会いで将来が一変

――現職のカケハシを知った経緯は何だったのでしょうか?

水野薬局で店舗主任をやりながら、「このまま現場でやっていくのか?」と、自分の中で漠然とした問いかけがありました。その間、Webメディア運営やブログ執筆(日本語・英語)などに取り組み、国内外のさまざまな企業・団体とつながりができ、とある勉強会でカケハシの代表・中尾に出会いました。

話を聞いたらおもしろくて、その後、定期的に会うようになったのですが、やり取りしているうちに、「カケハシで一緒にやりましょう!」と声を掛けてもらいました。夜中の神谷町で終電を逃して、公園のベンチに並んで語っていたのを今でもよく覚えています(笑)。自分でもいろいろ画策をしている時期でしたが、中尾の語る課題意識と事業プランに強い共感を抱くと共に、自身の思考の狭さを痛感したんです。

何よりも一貫して患者提供価値の向上を目指す思想が会話の端々に流れていたことに共感したのと、自分が積み重ねてきた知識や経験、薬局で学んだオペレーションの知見などが役に立つと考えました。

――まさに、運命的な出会いだったんですね。その後、実際に転職するまではどのくらいの期間がありましたか?

誘いを受ける意向を伝えたら、あと何ヵ月で薬局をやめられるか聞かれました。「ベンチャー企業のスピード感だと、2~3ヵ月でいろんなことが変わってしまう。1日1日が大切なんですよ」と力説されたのですが、「なるはやで」と答えるしかなかったですね(笑)。

最初は業務委託という形でコンテンツ制作を手伝っていて、数ヵ月経ち薬局を退職後は、有休消化期間を取る間もなく転職しました。ちなみに、カケハシには創業後1年くらいで入社したので、割と初期のメンバーです。創業初期は15人前後だった社員も今は100人を超え、オフィスもお化け屋敷のような建物から銀座に引っ越してきて、感慨深いですね。

創業当初から患者さんへの価値提供を追求。電子薬歴Musubiの導入は災害対策にも

――カケハシでの担当業務と、Musubiの特徴を教えてください。

入った当初はMusubiの仕様を決める責任者(プロダクトオーナー)でした。その後数ヵ月で、カスタマーサクセスという顧客の成功体験をひたすらに追い求める部署に移りました。Musubiを導入して終わりではなく、継続して使うことで顧客(薬局)に良い体験を重ねてもらい、ひいてはその先にいる患者さんに価値提供し続けること。また現場でその障壁となるものがあれば、開発がわかる形で翻訳してチームへフィードバックする。そこまでサポートするための、体系的なプログラムやアプローチを日々考えていました。

他にも、大手チェーン向けの商談・交渉や導入支援も担当しました。特に初期は社員も多くなかったので、なんでもやるんですよ。最近だと、オンライン講演会などもやっています。やはり現場の人と触れ合える機会は大事にしたいですよね。

薬剤師は患者さんによく質問をすると思いますが、確認する項目が多く、ややもすると尋問のようになりかねません。Musubiは「返報性の原理」を上手く使っていて、イラスト付きスライドでアドバイスをすることで、患者さんが自分の話を始めるなどのリアクションにつなげています。患者さんの反応がよくなると、問題を発掘しやすくなって、介入のきっかけになりますよね。

――顧客とのエピソードから、Musubiを導入することで得られるメリットについて教えてください。

最近で言うと、「Musubiの内容は自身の知識としてもう知っている」と仰っていた博学な薬剤師さんが、試しにMusubiのイラスト付きアドバイスを見せながら説明をしたら、患者さんがいつもより発言してくれて、継続していくうちに関係性が良くなったというエピソードがあります。確かに、シンプルな内容なので、知識が豊富な方は物足りなさを感じることもあるかもしれません。しかし、患者さんとの会話のきっかけを産み出し、薬剤師の説明をよりわかりやすく伝える機会になるという利点は侮れないものがあると感じています。

また、従来から広く使われている薬局にサーバーを設置するタイプのシステムは、店舗外から情報を閲覧できないことや災害時にサーバーが壊れるリスクがあり、昨今の豪雨災害でも問題になりました。Musubiのようなクラウド型システムでは、データが物理的に離れた複数箇所で安全に保管され、かつMusubi独自の機能で薬歴の連携もできます。わかりやすく例えると、お金を自前の金庫に保管するか外部の銀行に預けるかくらいの安心感の違いです。店舗をまたいで来局する患者さんが、いつでも良質で均質なサービスを受けられる利点は大きいと感じています。

リスペクトし合える社風で、面接は人柄を最重視。評価には第三者インタビューも

――社内の雰囲気、採用についてはどのような感じなのでしょうか?

カケハシの社員は、個性的で尊敬できる人ばかりなので、毎日おもしろいですよ。いろんなバックグラウンドの人がいますが、どんな出身でも成果を出していれば評価されます。創業初期はリファラル採用が多かったですが、エージェントを介して面接に来る人もたくさんいて、今はそちらがメインです。ピーク期は週に平均3~4人面接していましたね。

カケハシでは、3~4回の面接の中で主に各部署のメンバーが、その方がカルチャーにマッチするか、成果を発揮できそうかなどを見させていただいています。人に敬意を持てる、自分の無知を認めて人に頼れる、チームワークを重んじるなど、会社のバリューに基づいてその人の思考性を大事にしていますね。もちろん、これまでの事実ベースの実績もお伺いすることもあります。以前は、入社前に社員全員と面接して、1人でも×をつけると入社を見送っていたということもありました。それくらい人柄を重視しているということですね。

――評価制度はどのようなものを使用しているのでしょうか?

カケハシはもともとティール組織に近い運用でしたが、紆余曲折を経て今はOKRという目標達成ツールを軸として動いています。評価は直属の評価者や業務で関わった人の情報に基づき、関係者にインタビューがなされ決まっていっており納得感の高いものとなっています。ファクト(成果レベル)は全部集めて、どれだけ事業貢献したかという数値なども細かく見ますが、定量的な業務ばかりではないので、それぞれの指標を設けて評価しています。

参考)ティール組織とは、思い切って一言で言うと、「社長や上司がマイクロマネジメントをしなくても、組織の目的実現に向けて進むことが出来ている、独自の工夫に溢れた組織」のことです。
―ティール組織とは?3つのエッセンスの基本を実務的に丁寧に解説!(実務とつなげる経営の新潮流)より
https://nol-blog.com/what_is_teal_organization/

価値観は変わりゆくもの。何事もポジティブに捉え、とりあえずやってみる!

――最後に、ご自身のことを少し聞かせてください。過去を振り返って今に役立っていること、今大事にしていることは何ですか?

過去でその時々の役割や業務を極めた経験が、今に活きている感覚があります。若いうちはやるしかないし、何かやりたいことがあるなら、自分の時間を使わなきゃいけないと思ってやってきました。昔、事業をやろうとした時にビジネス書を読み漁り、価値観を可視化するために達成したいことや、拙い事業モデルを書いたこともあります。

自分で考え抜くのも大事ですが、自分より広く深いスケールでおもしろいことを考えている人が見つかることもあります。そういう人と一緒に、全力でコミットできる仕事に打ち込むのもいいですよね。周りにできる人がいると、自分の価値観も変わります。

僕が自分の中で大事にしているのは、他者から学べる素直さと仕事を楽しめる感覚ですね。結局は心の持ちようだと思っているので、なんでもポジティブに捉えてみて、迷ったらとりあえずやってみるという意識を持っています。今後も、薬剤師・患者さんの薬局体験を突き詰めていくために、あらゆる仕事に取り組んでいきたいです。
 

まとめ
今回のお話で、臨床で積み重ねた経験は、自らが最前線に立ち続けなくとも、多くの患者さんの役に立つことを教えていただきました。自分の極めたスキルが、意外なところで活用できるかもしれません。今を楽しみつつ、いろいろなことにチャレンジしていきたいですね。

取材・文/堀間莉穂(薬剤師・編集者)

 

会社データ 
会社名: 株式会社カケハシ
所在地: 〒104-0045 東京都中央区築地4丁目1-17 銀座大野ビル9F
設立年: 2016年3月30日
資本金: 27億8,537万円(資本準備金を含む)
従業員数:118人(薬剤師 13人)
主な事業: 薬局関連事業
ホームページ:https://www.kakehashi.life/

 

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この記事を書いた人

ユーザー pharmacist-horima の写真
365日開局の薬局薬剤師を経て、現在は編集者のかたわらでライターをしている。薬薬連携、多職種連携などに興味を持ち、メディア運営も担う。趣味はフルート演奏、ボードゲームなど。最近はあつまれどうぶつの森に時間を溶かされている。

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