地域の人々にとってのベストな治療とは?患者本位の薬剤師を目指した14年間

今回、病院薬剤師を10年間経験したのち、地域の調剤薬局で活躍する斎藤大祐先生にお話をうかがいました。
患者さんの薬物治療において、病院と薬局それぞれが目指すベストは違うと言います。薬剤師が本気で患者さんを支援するためには、どこを目指していくべきなのでしょうか。
 

 

 

薬剤師 斎藤 大祐(さいとう だいすけ)さん

●所属:ハーブランド薬局本店
●資格など:
薬剤師研修センター認定薬剤師
認定実務実習指導薬剤師
医療薬学会がん専門薬剤師(更新予定なし)
健康サポート薬剤師
地域薬学ケア専門薬剤師検討中

●経歴:
2006年 亀田総合病院薬剤部
2012年 新松戸中央総合病院薬剤部
2017年 ハーブランド薬局本店

最前線で経験を積んだ14年間。現在は健康サポート薬剤師として邁進

――始めに、現職に至るまでの経緯を教えてください。

最初は知識・経験を積むため、病院薬剤師になりました。学生時代に「病院はそもそも患者さんのためにある」と考え、患者満足度ランキング上位で地元からも近い亀田総合病院に就職を決めました。働きながら、評判どおり本当に患者さんに優しい病院だと実感し、患者さんを何よりも優先するという院長の理念・考え方は今も尊敬しています。正直、辞めるつもりはなかったのですが、5年勤めた後、奥さん(看護師)の転職に合わせて他の病院に移りました。

新しい病院の薬剤部では、初めは注射部門で働いていましたが、その後病棟担当になりました。しかし、患者さんと関わる中で、医師・看護師による充実した治療とケアを目の当たりにし、病棟における自分の存在意義について、力不足なのではないかと感じるようになりました。入院している間は服薬管理などもうまくいきますが、退院後、外来対応になるとそうはいきません。そのうち、退院後の自己管理を支えるために薬剤師がやるべきことの方が、自分が活躍できる場面が多いのではないかと考えるようになり、薬局薬剤師をやってみたいと思うようになりました。

転職を決めてからは、大学の友人などに相談して、地域密着型の薬局を探しました。最終的に、柏市薬剤師会のホームページで見つけたハーブランド薬局に面接を申し込み、会社理念などが自分の考えに近かったので、入社を決めました。今はハーブランド薬局に来てもうすぐ4年目に入るところです。

 

――薬局で働き始めて、大事だと感じていることは何ですか?

薬局(やドラッグストア)にとって大事なのは、セルフメディケーションを適切に推奨することだと考えています。今はコロナで状況が変わっていますが、本来、ただの風邪ならわざわざ病院に行かなくてもいいんです。症状が軽い場合は市販薬を買うよう医師が指示すれば、患者さんは自分から薬局に行くようになるかもしれません。その分、処方箋医薬品が必要な患者さんにリソースをしっかり使えるので、軽い処方で薬局が混雑することも少なくなるかなと。

ただ、そのためには、薬剤師が普遍的にそれらを区別できないといけないですし、市販薬を売る時にはしっかりした説明が必要です。薬局もドラッグストアも、必要な受診勧奨を適切にできる質を保つのは、とても重要なことです。
 

――健康サポート薬局の取り組みについて、教えてください。

うちの場合、患者さんが健康サポート薬局に相談しに来るのは病院の休診日が多いです。もちろん、病気でない人も来るので、未病の状態を見つけることも重要な役割だと思っています。自己測定系の各種サービスは、健康サポート薬局の一環として提供しており、基本的に未病の人をターゲットにしたものです。結果次第では、受診勧奨をすることもあります。検査の質は病院のほうが高いので、説明をしたうえでやりたいという人にのみ実施しています。

 

最上級の先輩と自分を対照的に見た結果、病院の外に出ることを決意

――今までに出会った中で、尊敬している先輩を教えてください。

聖マリアンナ医科大学横浜市西部病院にいる中薗 健一さんですね。亀田総合病院時代の1つ上の先輩で、とてもお世話になったので、今も薬剤師として1番尊敬しています。当時、病棟研修の担当だったのですが、なんでも知っていると言えるくらい、とにかく知識量が膨大で、こんな薬剤師がいるのかと驚いたのを覚えています。

新人時代から最上級レベルの先輩を間近で見ていたので、自分がちっぽけに思えてしまうのかもしれません。病院薬剤師として働き続けるためには、もっと学術的な勉強をしなければならず、論文などを書くことも期待されます。自分のライフワークバランスを考えたときに、中薗さんと同じレベルにはなれないと感じて、突き詰めるベクトルを変えることにしました。病院で求められるレベルを自分が達成できないとしても、他にやれることを探してやればいいと考えたんです。
 

――今、実感している病院と薬局の違いはどのようなところですか?

一歩外に出てみると、患者さんが実は薬を飲んでいないとか、QOLが著しく低いだとか、病院とは違うレベルで支援しなきゃいけない大事なことがたくさんあります。病院は最高峰の治療(ベスト)を目指すけれど、いざ自宅に戻ると、薬を管理するのは患者さんやご家族なので、それを保ち続けるのはとても難しいです。

薬局の視点で考えると、可能な限り病院と同じ治療を継続したいとは思いますが、患者さんのキャラクターや家族の支援の程度によってはそれが難しい場合もあります。そのような時、たとえベストな薬物治療ではなくなってしまっても、患者さんが継続可能な薬物治療に変更してもいいのではないかと考えています。地域の薬局では、飲み方を簡易化して、「これなら自分でもできる」と思ってもらえるような薬物治療の継続が求められます。ずっと続いていく患者さんの生活を守ることも大切なので、ベターな薬物治療でも時には悪くないんじゃないのかなと思います。

患者さんのためにがん専門薬剤師を取得するも、医療と患者さんの間で板挟みに…

――病院時代にがん専門薬剤師を取得した経緯について教えてください。

自論ですが、全てのがん患者さんが、がん専門病院に受け入れられる状態が一番いいのではないかと思っています。ただ、現実的には地域の中小病院でもがん治療をやらざるを得ない。僕は、中小病院の医療の質の担保にがん専門薬剤師が必要なのではないかと考え、資格を取得しました。
 

――今はがん患者さんとほとんど関わりのない現場にいらっしゃいますが、ここに至ったきっかけは何だったんでしょうか?

病院で患者さんとの関わりを突き詰めていく中で、提供される医療と患者さんの気持ちとのギャップを感じるようになってしまったことです。当時、血液内科病棟にいたのもありますが、だんだん重くなっていく再発の患者さんと望まない再会をすることが少なくありませんでした。

また、外来化学療法についても、治療開始から数週間経って会った時、全身倦怠感などの副作用が見て明らかで…。治療が長引くほど、そもそも何のために治療しているのか、患者さん自身は治療の先にある将来が見えているのか不安になりました。治療のために生きているのか、生きるために治療しているのか、どっちなんだろうと。治療のために生きているのだとしたら、つらい治療を続ける意味があるのかな?と思ってしまいました。

医師は、患者さんが病院に来たら一生懸命治療するけれど、僕は患者さんがそれを本当に求めているのかわからなくなってしまったんです。医師は「病気がなくなったこと」を“治った”と考えているパターンが多いですが、患者さんの考える“治った”は、「元の状態に戻ること」です。
「先生が“治る”と言うから頑張って治療を受けたのに、思っていたのと違う」と話す患者さんは珍しくありません。病気の治療が終わっても、ADLが下がってしまうと退院できず、転院先を探すことになります。ソーシャルワーカーと、「患者さんが言う“治った”になっていないから、こうなっちゃうんだよね」と話すこともありました。

患者さんが「最期は自宅で迎えたい」と希望していても、結果的に病院で過ごす時間のほうが長いように思います。僕は、しっかり管理すれば入院の機会や期間も少なく済むだろうと考え、患者さんができる限り自宅で長く過ごせるよう支援しようと決意しました。もちろん、病院は絶対に必要なので、僕にとってはそっちの考えが合っているというだけです。病院に戻りたい気持ちは今のところありません。


――最後に、今後について考えていることを教えてください。

薬剤師免許を持っている以上は、患者さんのためにやるしかないので、薬剤師としての責任をしっかり果たしたいです。今も病院に就職した時の考えと根本的には変わっていません。薬剤師は患者さんから必要とされている仕事なのだから、患者さんの満足度を考えるのは当然で、シンプルな考えだと思います。今後は、薬局薬剤師を対象に最近新設された地域薬学ケア専門薬剤師の取得を考えています。

 

まとめ
14年間ずっと変わらず、患者さん第一に思い続けている姿勢には感銘を受けました。
患者さんの生活を守り、できる限りベターな管理を継続していくという考え方は、覚えておこうと思います。斎藤先生、今回は本当にありがとうございました!

取材・文/堀間莉穂(薬剤師・編集者)

 

ハーブランド薬局本店
●所在地:千葉県柏市柏1-1-7
●営業時間:
 月・火・水・金 9:00~20:00
 土 9:00~18:00
 木・日 9:00~17:00
●従業員数:11人(薬剤師:5人、他事務員、管理栄養士など)
●主な応需科目:耳鼻咽喉科、眼科、内科、婦人科
●調剤以外のサービス:
 電子お薬手帳kakari
 OTC販売
 自己採血測定(ヘモグロビンA1c、脂質)
 認知症危険度測定(もの忘れ相談プログラム)
 糖化度(体の焦げつき度)測定
 全自動血圧測定

会社データ 
●会社名:ライフエンタープライズ株式会社
●所在地:千葉県柏市柏1-5-11 柏NKビル5F
●設立年:昭和55年
●資本金:1500万
●主な事業:保険調剤、訪問看護、介護サービス、訪問治療、鍼灸、機能訓練、マッサージ
●ホームページ:https://herbland.co.jp
 

 

 

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この記事を書いた人

ユーザー pharmacist-horima の写真
365日開局の薬局薬剤師を経て、現在は編集者のかたわらでライターをしている。薬薬連携、多職種連携などに興味を持ち、メディア運営も担う。趣味はフルート演奏、ボードゲームなど。最近はあつまれどうぶつの森に時間を溶かされている。

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