理想のキャリアは病院?薬局?それとも…?「訪問薬剤師」という新たな選択肢 ~つなぐ薬局柏~

長い薬剤師人生で、病院や薬局、ドラッグストアなど、働く場所に悩むタイミングは幾度となくあるでしょう。しかし、実際に働いてみないとわからないことも多く、迷いや悩みは尽きません。自分が目指す理想の薬剤師像とマッチするキャリアは、どうやって見つければよいのでしょうか。
今回、病院薬剤師として実績を積んだのち調剤薬局に転職し、現在は在宅医療特化型薬局にて活躍する鈴木 邦彦先生にお話をうかがいました。病院・薬局両方の視点で語られる知見から、皆さんが今後の薬剤師人生を考えるうえでのヒントが見つかるかもしれません。
 

 

プロフィール
薬剤師 鈴木邦彦(スズキ クニヒコ)さん
千葉県柏市の在宅医療特化型薬局「つなぐ薬局」に勤務。2006年に第一薬科大学を卒業。08年共立薬科大学大学院医療薬学コース修士課程修了。病院薬剤師として7年勤務したのち、保険薬局業務へ転職。その後、在宅医療により力を入れたいと現職つなぐ薬局に転職。現在、施設往診同行や個人在宅訪問などで積極的に医師とコミュニケーションを行い、処方提案へとつなげている。CareNet.comにて「うまくいく!処方提案プラクティス」を連載中

2006 第一薬科大学 薬学部 卒業
2008 共立薬科大学大学院 医療薬学コース修士課程 修了
2008~ せんぽ東京高輪病院(現:東京高輪病院)薬剤科
2010~ 河北総合病院 薬剤部
2016~ ファーミック薬局(調剤薬局)
2018~現在 つなぐ薬局柏(在宅医療特化型薬局)

 

病院薬剤師を目指し、病院・海外研修で地盤を固めた学生時代

――大学院に行ってから病院に就職というのは珍しい経歴ですが、その期間どんなことを学んだのでしょうか。

僕は、父親が医師、祖父母が薬局経営者だった影響もあり、病院薬剤師になることを決めていました。ただ薬学部を卒業しただけでは、自分の力を存分に発揮できる薬剤師になれないのではないかと思ったので、病院での研修が充実している大学院に行きました。
大学院には海外研修カリキュラムがあり、僕は1~2ヵ月間アメリカに行ったのですが、そこで見た薬剤師は、病棟で医師と肩を並べて、ワーファリンや栄養剤、抗菌薬の投与設計などに取り組み、患者さんのために多くの時間を使っていました。日本でもちょうど薬剤師が病棟に上がり始めた頃で、「これからいろいろできるな」と期待が膨らみましたね。とくに、そこで学んだ腎機能評価の実践経験は、今でも大いに役に立っています。

病院から薬局へ、待っていたのは「やれることをやるしかない」という覚悟

――7年経ち、満を持して就職した病院から薬局に転職した理由は何だったのでしょうか。

僕が病院から調剤薬局に転職した理由は2つあります。1つは、薬局薬剤師の意識を改革しないといけないと思ったからです。以前急性期の病院で働いていて、入院した患者さんがよくなって退院していく過程を見ていましたが、その後しばらくして再入院になる事例が少なからずありました。もちろん、患者さん側にも原因はありますが、薬局薬剤師が服薬・生活管理をもっとサポートできたら、患者さんが退院後に家にいられる時間が長くなるのではと感じたんです。このままだと薬局薬剤師が淘汰されてしまうのではないかと危機感を持ち、質向上(臨床力、責任遂行力など)が必須だと考えました。
もう1つの理由は、病院は業務が繁忙で、自分の時間を作ることがなかなか難しかったからです。その頃、結婚や子供について考えている最中で、このまま病院薬剤師を続けていたら生活が破綻しかねないと思い、自分の生活を守るという意味もあって、薬局薬剤師への道を決めました。

病院薬剤師時代の働き方

総合病院の概要 勤務スタイル

河北総合病院

病床数:約400床
従業員数:薬剤部/20人
診療科目:消化器内科・循環器内科・心臓血管外科・呼吸器内科・呼吸器外科・乳腺外科・消化器外科・脳神経外科・脳血管内科・感染症内科・糖尿病・内分泌代謝内科・アレルギー膠原病科・整形外科・形成外科・皮膚科・泌尿器科・眼科・リハビリテーション科・麻酔科・放射線科
 
病棟業務実施加算、薬剤管理指導算定
(病棟担当制)

平日、土曜:9:00~18:00
(情報収集などのために、8:30には出勤)
当直:18:00~9:00(月に2回程度)
残業:平均60時間/月
(計上は30時間/月まで)
祝日含まない4週8休制
夏季休暇:5日、年末年始休暇:6日
 
《委員会活動》
NST委員会(月1回)
感染実行委員会(月1回)
救急委員会(月1回)
(業務時間内)

転職後の働き方

調剤薬局の概要 勤務スタイル
ファーミック薬局
店舗数:3店舗(在職時点)
従業員数:薬剤師8人(パートを含む)

主な応需科目:
小児科・内科、整形外科、眼科、皮膚科、心療内科、泌尿器科、耳鼻咽喉科

在宅訪問(居宅療養管理指導対象)
個人在宅:8人
担当施設:特養1施設
月火木金:9:30〜18:30(90分休憩)
水曜:9:00〜16:30(90分休憩)
土日休み(月1回他店舗勤務)
残業:平均10時間/月

実務実習指導 3〜6人/年
 
薬剤師会の定例会:月2回(業務時間外)


薬局に来て感じたのは、患者さんとの距離がとても近くて、期待もたくさんあるということです。その一方で、薬局を「薬を受け渡す場所」としか考えていない患者さんが多いことも気に掛かりました。そうさせてしまったのは薬剤師と考えているので、これから薬局の仕事をしっかり認知してもらうためには、薬剤師自身が変わらないといけない。やれることを地道にやるしかないと、覚悟を決めました。

会社理念に共感。職場は「自分が自分らしく能力を発揮できる場所」

――現職の「つなぐ薬局」とは、どのような形で出会ったのですか?

つなぐ薬局の代表の一人が病院時代の同期で、立ち上げのときに声を掛けてくれたのがきっかけでした。ちょうどその頃、当時働いていた薬局で在宅を任されたタイミングだったので、すぐにとはいかなかったのですが、話を聞いて、こういう仲間たちと共に仕事をしたいと強く思いました。

同期は、以前から「在宅を担う薬剤師にとって、問題解決能力は必須。これからの薬剤師がパフォーマンスを存分に発揮できる場は在宅だよ」と伝えてくれていました。その後あらためて、「それを叶えるためには君が必要だ」とオファーを受けたので、つなぐ薬局へ行くことを決意しました。

現在の働き方

在宅医療特化型薬局の概要 勤務スタイル
つなぐ薬局柏
店舗数 3店舗(柏、桜台、足立)
従業員:薬剤師:14人(非常勤含む)
    事務職:11人

在宅訪問
個人在宅:120人
担当施設数:20施設(患者数:400人)
主要連携医療機関:7つ
処方箋:1000枚/月
平日:9:00〜18:00(60分休憩)
週1回遅番:11:00〜20:00(60分休憩)

水・日・祝日休み(交代制で日直あり)
残業:平均20時間/月

夏季休暇:3日
イクメン休暇:3日
 

1日のスケジュール例

病棟担当薬剤師の一例 つなぐ薬局薬剤師の一例
1.夜間入院患者の情報収集
  スケジュール変更など確認
2.退院処方の服薬指導
3.持参薬確認&処方薬のセット
  服薬指導(夜間入院、予定入院)
4.午前中の続き
  緊急入院の持参薬確認
5.注射調剤・監査
6.残務処理・退院処方の準備
 (処方医に依頼&処方薬の確認)
7.薬剤管理指導記録の作成など
※PM業務が押すため、定時に終わらない日のほうが多い。
 合間に委員会業務や多職種との打ち合わせ、回診などが入り込む。
1.申し送り事項、スケジュール確認
2.往診同行、訪問薬剤管理指導
  調剤・監査、事務員に指示出し
3.往診同行、訪問薬剤管理指導
  調剤・監査、事務員に指示出し
4.薬歴、報告書、
  処方提案書&疑義照会など作成
  申し送り事項作成

 

――「つなぐ薬局」に来てよかったと感じていることは何ですか?

つなぐ薬局の理念「ひとり一人の生活に寄り添い 医療・福祉をつなぎ 心を惜しまず 支援する」が、僕の理想ととても近いことですね。今はストレスやフラストレーションを抱えることなく、本当にイキイキと仕事ができていて、奥さんからも言われるほどです。自分が自分らしく能力を発揮できる場があることに、とても感謝しています。

往診同行をして、医師といろいろなことを一緒に考えて、個人在宅に行って、患者さんの生活状況から服薬について考えて、薬物治療の現実と理想をすり合わせていくお手伝いをしています。病院でやっていたことと同レベルの仕事ができているので、僕自身は、「転職して大成功」だと思っています。

仕組み化された薬局業務とオンラインツールの活用で効率化を徹底

――「つなぐ薬局柏」の特色について教えてください。

業務体制で言うと、(1)事務職の業務分担、(2)チャットツール・クラウドを活用した情報共有の2点でしょうか。まず(1)についてですが、非薬剤師業務を、調剤事務員(SP:Supportive Partner)と​薬剤師業務補助(TP:Technical Partner)で分担しています。SPさんには主に薬局の事務業務(電話応対や患者さんの初期対応、外部連絡など対外業務、書類作成補助や物品発注など)、TPさんには、薬剤師をサポートするパートナーとして、薬局の品質管理や運用を手伝ってもらっています。​ 

また、(2)については、店舗スタッフと店舗内や担当施設とのやり取りに、医療・介護用メッセージングサービス「メディライン」を用いた情報共有をしています。口頭だけでなく、テキストとして記録に残すことで、配薬中や休日でその場にいない人でも、後から時系列で出来事を把握することができます。さらに、データ共有にはGoogleドライブを活用しており、ネット環境さえあれば、いつでも必要な資料を確認できる環境を整えています。これまで、チャットツールやクラウドと馴染みがなかったスタッフも、意外とすんなり慣れていますよ。

ほかにも、店舗スタッフを東西南北エリアで2チームに分け、在宅(個人・施設)の処方箋をチーム担当制にしたり、店舗のホワイトボードやオンライン会議ツールを使って処方検討会を開催したりなど、独自の取り組みをしています。在宅訪問を専門とする薬剤師はまだ少ないので、これからもどんどん情報を発信していきたいと思っています。

病院と薬局、両方と真剣に向き合ってきたからこそわかる、それぞれの良さ

――自身の経験を踏まえ、薬局と病院どちらのキャリアを勧めますか?

率直に言うと、新卒ならば最初は病院を経験したほうがいいと思っています。電子カルテから、診断名や検査値、基礎疾患、既往歴、医師の考える治療方針、看護師をはじめとする多職種の記録が見られますし、さらに言うと、注射薬も含めた総合的な薬剤管理も学べて、多職種との関わりも豊富にあります。要は、最初からあらゆる環境が揃っているからです。 ただ、これらの経験が絶対に病院じゃないとできないかというと、そんなことはないですね。薬局薬剤師は、患者さんに聞いたり、病院に聞いたり、時には他職種に会いに行って、自分で情報を集めることができます。こういうことをしっかりやれる先輩がいるなら、初めから薬局でもいいと思います。薬剤師としての誇りを持てる仕事は、病院でも薬局でもできます。でも現状は、薬局でそれを教えられる先輩が少ないので、病院をお勧めしていますね。

――先生は指導薬剤師の資格も持っていますが、後輩指導で意識していることはありますか?

薬剤師業界の問題として、リスペクトできる先輩薬剤師と知り合える機会が少ないと感じています。なので、僕は後輩にお手本を見せて、現場のおもしろさをどんどん伝えていきたい。僕の思いが実務実習中の学生や新人に伝わって、「薬局っておもしろいじゃん」と思ってもらえたら、将来の就職や転職の理由が変わると思うんです。そういう薬剤師を増やしたいという一心でやっています。

自分の将来に迷っている薬学生・薬剤師には、「薬局でも病院と変わらないレベルの介入ができること」、「患者さんと一番身近な場所で、ふれあって楽しくやれる世界があること」を、ぜひ知ってほしいです。思いを伝えていけば、仕事への見方が変わることを実感しているからこそ、これからも伝えていきたいと思っています。

 

まとめ

私にとっても、「在宅特化型調剤薬局で訪問薬剤師」というキャリアは、今まで自分の中にはなかった新しい選択肢となりました。興味を持たれた方は、地域にある在宅専門の薬局を探してみてください。意外と身近なところにあるかもしれません。
また、鈴木先生へのインタビュー後半では、医師とスムーズにやりとりするコツや、高いモチベーションを保ち続ける秘訣について聞いてみました。ぜひ、続けてご覧ください。

取材・文/堀間莉穂(薬剤師・編集者)

インタビュー後半
薬剤師が志高く働き続けるには? 医師からの信頼と学びの発信が処方提案の入口に

 

 

会社データ 
●会社名:ワイズ株式会社
●所在地:千葉県柏市東1-2-45サンライズイシド302号室
●設立年:2016年
●ホームページ:https://www.wise-jmco.com

つなぐ薬局柏
●所在地:千葉県柏市東1-2-45サンライズイシド302号室
●営業時間:月~土曜日 9:00~18:00(日・祝日休み)
●従業員数:(常勤薬剤師)8名(非常勤薬剤師)2名、(事務職員)8名
●主な応需科目:脳神経内科・外科、循環器内科、消化器外科、消化器内科、呼吸器内科、呼吸器外科、眼科、皮膚科、泌尿器科、整形外科、膠原病内科
●調剤以外のサービス:在宅訪問薬剤管理指導、居宅療養管理指導、無菌調剤・調整、緊急対応サービス(緊急訪問算定など)

 

 

 

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この記事を書いた人

ユーザー pharmacist-horima の写真
365日開局の薬局薬剤師を経て、現在は編集者のかたわらでライターをしている。薬薬連携、多職種連携などに興味を持ち、メディア運営も担う。趣味はフルート演奏、ボードゲームなど。最近はあつまれどうぶつの森に時間を溶かされている。

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