薬剤師はモヤモヤ感を抱えている?毎日の服薬指導で自己肯定感を高めよう

就職以来ずっと、地元・鹿児島の調剤薬局で働く笹川 大介先生。今は、セミナーや講演会、YouTubeなど、さまざまな場で服薬指導に役立つ知識を発信し続けていますが、働き始めた当時は、患者さんに何もしてあげられない自分に“モヤモヤ”していたそうです。そんな笹川先生に、「どうやってモヤモヤ感を払拭したのか」、「今モヤモヤを抱える薬剤師はどう乗り越えたらよいのか」を、教えてもらいました。

取材・文/堀間莉穂(薬剤師・編集者)
 

プロフィール

薬剤師 笹川 大介(ササガワ ダイスケ)さん 39歳
株式会社ゆかりファーマシー取締役

熊本大学薬学部を卒業後、2003年より地元・鹿児島県種子島の薬局に就職。その後、結婚を機に2009年より現職へ。
各地での講演会やセミナーを多数行っており、最近はYouTubeでオリジナル講義「かんたん薬理学」を精力的に配信している。日経DIクイズの執筆者、薬剤師教育動画「描いてつかむ! 副作用の薬理学」出演などの経験を持つ。
 

 

 

勉強しない薬学生が一変! 勉強は「モヤモヤ感を払拭する方法」だった

 

――先生は現在、講演会やYouTubeなどでオリジナル講義をされていますが、昔から勉強が好きだったのでしょうか?

実は、私は薬学生時代、まったくと言っていいほど勉強をしなかったんです。そんな私でも、社会に出てから、学校で習った内容と実際の業務との乖離が激しいことに思い悩みました。初めて働いた店舗の薬局長がとても勉強熱心な方だったのですが、当時は薬剤師向けの情報が少ない中、医師向けのDVD教材などで勉強していたんです。そこで、しっかり勉強しないと、本当の意味で患者さんと話せる薬剤師にはなれないことに気付きました。たしかに、コミュニケーションが得意なら患者さんとよく話せますが、それだと「ただ雑談が上手な薬剤師」になるだけなんですよね。

――非常に耳が痛い話です・・・(苦笑)。

服薬指導は、「優しそうにしておけば失敗しない」みたいな雰囲気がありますが、それだけだと、いざ患者さんが医学的・薬学的に困ったときに、何もしてあげられない。薬剤師なのに何もできないということに、モヤモヤしてしまうんです。私の場合、このモヤモヤ感をどうしたら払拭できるか?と考えた結果、勉強にたどり着いたというわけですね。「副作用は薬理学の延長である」って、一見当たり前のことですが、薬剤師が皆、大学で学んだ薬理学を全部覚えているかというと、なかなか難しいんじゃないでしょうか。

――たしかに、そうかもしれません。

私がやっていることは、まず自分で薬理学をわかりやすく習得(インプット)する。そして、それを周囲の薬剤師に向けて伝える(アウトプット)。そうやって身近な人たちと勉強会をやってるうちに、日経DIの編集者と知り合って、日経DIクイズを執筆することになったんです。これをきっかけに、県外の薬剤師会や学会からも声が掛かるようになりました。
 

休憩室の本棚には書籍がぎっしり!休憩室の本棚には書籍がぎっしり!

服薬指導で目指すのは、患者さんに心の中で「へぇボタン」を押してもらうこと

――そこまで服薬指導のために勉強を重ねる原動力はどこにあるのでしょうか?

患者さんとの関わりで得られる「成功体験」かもしれないです。患者さんには、「この薬剤師はわかってるな」と思ってもらうことが大事です。最初は、患者さんがどういうことを求めているかわからないので、2~3分の服薬指導の間に毎回少しずつジャブを打ちながら、薬学的なことを、どうやったら相手の心に刺さるように伝えられるか探っています。私の経験では、何か刺さるとそこから患者さんの表情が変わって、質問をしてくるようになります。薬の話をとっかかりにして、相手の知りたかったことをピンポイントで伝えることができれば、なかなか自分のことを話してくれない患者さんも、話してくれるようになりますよ。私は、それがすごく気持ちいいんです。

――なるほど。ちょっとハードルが高いような気もしますが…。

少し考え方を変えれば、誰でもできると思いますよ。そもそも、薬剤師自体がコミュニケーションを苦手とする人が多いですし、私もそうです。患者さんとコミュニケーションをとる中で、追加要素として“薬学的な話”をちょっと混ぜて、患者さんに「へぇボタン」を押させるような感覚ですね。何もしゃべってくれない患者さんでも、「これって〇〇でしょう?」などと簡単な問い掛けを繰り返していくと、心を開いてくれることがあります。「薬剤師としゃべってよかったな」って思ってもらえるような体験は、勉強すればするほど増えると実感しています。このことを周りに広げていくためにも、YouTubeをやったり、薬剤師の教育動画に出演したり、いろいろなことをやっているんです。

薬の良いところと悪いところ、両側面から伝えていくことで患者さんの信頼を得る


――先生の原動力は、「薬剤師の成功体験を増やしたい」という思いにあったんですね。実際に印象に残っている体験はありますか?

例えば、新規でDOACが出たときに、患者さんが「心房細動と病院で聞いた」と話してくれたとしても、そもそも心房細動のことを知らない場合が多いです。だから、服薬指導の際に、有名人で脳梗塞にかかった人(小渕恵三元総理大臣、長嶋茂雄さんなど)を例に出して、「昔は心房細動が脳梗塞の原因になったけど、今はそういうことはほとんどない。なぜなら、予防できる薬があるから。もし可能なら、脳梗塞を心配しなくていい人生を送りたくないですか?」と聞いてみます。

――すごい、私にもプラスな印象が伝わってきました!

よくやりがちですが、「××なことはないですか?」など副作用ばかり伝えると、患者さんは服薬をビビッてしまうかもしれない。薬剤師としては、治療に前向きになってもらいたいから、まず良いことを伝えることが大切です。そのうえで、良いことばっかり言うと逆にあやしく思われるかもしれないから、「でも、注意してもらいたいことがあるんです」と伝えます。良いことと悪いことの両側面から伝えると、患者さんからの信頼を得られることが多いですよ。まずは、病気をわかりやすく捉えてもらう。病院の医師は忙しいから、薬剤師がどれだけ噛み砕いて伝えることができるかで、患者さんのアドヒアランスが変わります。もちろん、一度に全部伝えると大変だから、小出しにして少しずつ伝えていくといいですね。

――たしかに、あらゆる疾患について両側面から説明するためには、自分の中で病態や薬理をしっかり消化していないとできないですね。

そうですね。薬剤師はたくさんの知識を持っていますが、知っているからと言って、患者さんにうまく説明できるとは限りません。私は、患者さんに知識を教えるというよりは、知恵を授けるイメージでやっています。知識は本を読めば身につくので、それをどうやって伝えるのか、というところがとても大事ですね。

――薬剤師って、インプットは得意な人が多いですが、アウトプットが苦手な人がとても多い印象があります。

そうだと思います。私にとっては、セミナーや講演、YouTubeがアウトプットの練習場です。知り合いからは「よくYouTubeに顔出ししてるね」って言われますが、「2枚目だからいいんだよ」って冗談半分に言ってます(笑)。やっぱり、匿名は情報として価値が落ちてしまうので、自身の出所を明かさないと。笹川大介として、“薬剤師の思い”を伝えていかないと、もったいないなと思うんです。

モチベーションを保つために、寝る前の振り返りで自己肯定感を高める

――先生のYouTube配信はかなりの更新頻度ですが、モチベーションを保つ工夫はありますか?

私にとってのモチベーションは、「わかりやすかった」とか「こういうことだったのか」などと感想を言ってもらえることですね。「みんな、実はここがわからなかったのか」などがわかるのも、自分の中での楽しみです。あとは、毎日よかったことだけを書き連ねる日記をつけて、「どうしてよかったのか」を分析しています。例えば、1日40人に投薬するとして、40人に最高のものを提供しようと思うから、つらくなるんじゃないかなと。40人のうち1人でもいいから、自分の満足できる投薬について、寝る前に思い出して書くことで、薬剤師としての自己肯定感を高めています。

――1つでもいいから、良かったことに焦点を当てるということですね!

そうです。一般的に、薬剤師は良かったことの振り返りをあまりしなくて、悪かったことばかりを反省して、分析して、ヒヤリハットを書いて…て、しますよね。もちろんそれも大事ですが、ミスが許されない職業だからこそ、ポジティブな側面に目を向けるといいんじゃないでしょうか。薬剤師はネガティブな人が多いと思うけど、「すっごくポジティブな男性薬剤師」とか、いたら憧れますよね!

地方では、ずっと前から「健康サポート薬局」の役割を担っていた

奥様のお父様から引き継いだ薬局を、夫婦2人で経営。患者さんに対してできることは笹川さんが、スタッフ教育、メーカー・医薬品卸とのやり取りなどは、社長である奥様が担当しているそう。

 

――先生はずっと鹿児島で薬剤師をされているようですが、地方ならではのいいところ・よくないところは何だと思いますか?

そうですね、近所の人たちがほぼ患者さんで、どこに行っても患者さんと会うから、いつでも薬剤師としていなきゃいけないことですかね(笑)。でも、だからこそ身近な付き合いができるというのもあります。薬が足りなかったときは帰り際に届けたり。道でばったり会って、薬のことを質問されることもありますよ。身近な医療の相談事を話せる立場になりやすいというメリットはあると思います。

――「健康サポート薬局」ができるずっと前から、その役割を担っていたということですね!

そうかもしれないです。あとは、地元で働くなら店舗の近くに住むというのも大事かもしれないです。ただ仕事をするために来ている人じゃなくて、地域のことをよく知っている人になりたいと思っています。

 

思い描く未来は、アウトプットする薬剤師たちでムーブメントを起こすこと!?

――先ほど、薬剤師のモヤモヤ感についての話がありましたが、今実際にモヤモヤしている薬剤師は、どうしたらいいのでしょうか?

結構、モヤモヤを感じている薬剤師って多いですよね。「薬剤師になったけどなんだかな。薬出すだけになってないかな?」と、自分でもいまだに思うことがありますよ。僕の場合は勉強って言いましたが、やっぱり「アウトプットすること」じゃないかな。SNSやnote、ブログなど、なんでもいいから、薬剤師として、相手に役立つと思える情報を書くんです。愚痴とかはあまり書かないように気を付けて、1週間に1回からでもいいから、書いてみるといいんじゃないでしょうか。頻度を決めて、とにかく続けることが大事です。書き始めるとモヤモヤが晴れるような気がしますよ。また、「何をネタに書こうかな?」 と考えていると、服薬指導でうまい具合に良いネタに当たるんです。そうしたら、「次はこれを勉強しよう」と思うので、アウトプットを意識するだけで変わるはずですよ。

――なるほど、逆転の発想ですね!

そうそう。まずアウトプットする方法や頻度を決めて、服薬指導で得られた情報から、何かしらのヒントをもらうんです。吐き出すことは、自分の頭の中を整理することにもなります。忙しい毎日だろうけど、発信する薬剤師がもう少しいてもいいんじゃないかなと思います。もっと増えたら、今よりおもしろい業界になるんじゃないかな。薬剤師は本当に真面目だから。

――たしかに、よく頭でっかちとか言われますよね。

YouTube「かんたん薬理学 骨粗鬆症の薬」より

 

私は、とにかく薬剤師として生きている証拠を残しておきたいんですよね。「これをした」という結果が見えにくい職業だから、自分で残すしかない。今は、先人が残したものを皆で共有できる時代になったので、そういうのが増えて積み重なっていけば、何かしらムーブメントが起こるんじゃないかなと期待しています。今は、くそ真面目にYouTubeに出ているけど、本当はテレビショッピング風に薬の解説をしたりとか、いろいろバカなこともやってみたいなと思いながらやっていますよ(笑)。

 

まとめ
「薬剤師として生きている証拠を残しておきたい」、これは名言ですね! 先生の言うように、さまざまな方向性で活躍する薬剤師が世に出てきたら、もっと楽しい業界になるかもしれません。テレビショッピング風解説を見れる日が楽しみです。 笹川先生、今回は本当にありがとうございました!

 

会社データ 

●会社名:株式会社ゆかりファーマシー
●所在地:鹿児島県薩摩川内市平佐町3739-6
●設立年:2018年
●主な事業:処方箋調剤
●ホームページ:https://kizuna-satsumasendai.jp/

 

きずな薬局 平佐店

●所在地:〒895-0012 鹿児島県薩摩川内市3739-6
●営業時間:
 月~金曜日:8:30~18:30
 土曜日  :8:30~15:00
 定休日  :日曜祝日
●従業員数:5名(薬剤師2名)
●主な応需科目:循環器科など

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この記事を書いた人

ユーザー pharmacist-horima の写真
365日開局の薬局薬剤師を経て、現在は編集者のかたわらでライターをしている。薬薬連携、多職種連携などに興味を持ち、メディア運営も担う。趣味はフルート演奏、ボードゲームなど。最近はあつまれどうぶつの森に時間を溶かされている。

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